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フィンランド語講座

北海道フィンランド協会

viili 凝乳

viiliは「凝乳」と訳されることの多い、ビヨーンと伸びる、ヨーグルト(jogurtti)の親戚筋の乳製品。ベリーや果物ソースと一緒に食べることが多いです。フィンランド人で納豆を食べることに全く抵抗を感じない、むしろ好きな人が多い(北海道大学の女子留学生数名は、毎日のように納豆を食べているようです)のは、viiliのような食品の食感に慣れているからではないかと察しています。

viiliと間違いやすい語にvilliがあり、「野生の、ワイルドな」(形容詞)という意味です。

写真のviiliのカップに記されているフィンランド語、興味があったら解読してみて下さい(Arlaは「雪印」、「森永」のようなブランド名)。viiliのような物質名詞はラベルには単数分格形(viiliä)で表示されていることも多いです。

kiuas サウナストーブ

2017年8月13日(Läsäkoski, Mikkeli)

kiuas(サウナストーブ)は変化の難しい語で、単数分格はkiuasta単数属格はkiukaan(k:Φのkptあり)、複数分格はkiukaita(同左)。Kiuas on saunan sydän.「サウナストーブはサウナの心(臓)。」はフィンランドのことわざです。

1枚目の写真は私の恩師の川上セイヤさんの実家のサウナ。サウナストーンは人工石です。写真右側に少し見えているのは年季の入った木製の枕だったと記憶しています。

もう一枚は最も古い友人Jussi宅のrantasauna(岸辺(の)サウナ)のストーブ。このストーブはちょっと珍しい形をしていて、サウナストーンが、ストーブ上部にぽっかり空いた穴の中に置かれています。ひしゃくで水をかけてロウリュ(löyly)を出すのが少々やりずらいのですが、サウナに入っている間にサウナソーセージが(saunamakkara)焼けていく様子を楽しめるという余興があります。

2004年7月20日(Ruovesi)

katiska 梁(簗)やな・・・フィンランドの仕掛け網

2017年8月13日Mikkeliで

もう少し頻繁に豆知識を皆さんに提供したいと思いながら、忙しさにかまけて(私の忙しさなどは知れており、要領が悪いだけなのですが)投稿間隔が空いてしまうのが悩みなのですが、火曜初級コースで毎週紹介している「今日の1語」を投稿に活用すれば良いかもと思いつきました。

katiskaは中級以上のレベルの人でも語彙に入っていないかもしれません。都会ではまず見かけませんが、田舎ではよく見かける漁具です。私はどちらかというと田舎に知り合いが多いので、このkatiskaを岸辺で見かけるとフィンランドの田舎に来た気分になります。色は写真のように、鶏舎などで使う軽量の網そのものの金属色、たまに写真の後ろにあるように緑っぽいもの、青っぽいものもあるようですが、赤いものはまだ見たことがありません。赤ければリンゴ(omena)やハート(sydän)のように見えて可愛いと思うのですが。魚も警戒して簗の中に入ってこなくなるのかな?

katiskaのように-sk-の語尾を持つ語はkpt変化は起こしませんので、「~の」(単数属格)はkatiskan単数分格、たとえば「2つの仕掛け網」は2 katiskaaです。複数変化が難しく、「たくさんの仕掛け網」はpaljon katiskoita / katiskojaと2種類の複数分格が許されており、「仕掛け網たちの」はkatiskoiden / katiskoitten / katiskojenと3種の複数属格が許されているのに加え、ほとんど使われることはありませんが理論上は「第二属格」と呼ばれるkatiskainという第4の形も存在します。

viisi suomalaista vaihto-opiskelijaa 5名のフィンランド人留学生

あっという間に7月(heinäkuu「干し草の月」)を迎えました。またまた当ブログ欄への投稿間隔が空いてしまいました。

先週木曜日には私が非常勤を務める北大のフィンランド語入門コースに5名の留学生がゲストとして参加してくれ、うれしい限りでした。コロナ禍で新しい留学生は全く来道していないのかと思っていましたが、短期留学プログラムで4名が実は4月から北大で勉強しており(8~9月には帰国してしまうのが残念)、2度目の留学で6月末に札幌に来たばかりのPetra Nurmelaと合わせての計5名ということになりました。

せっかく授業に来てくれたので、人使いの荒い私は、受講生との初対面のあいさつ、発音練習などで活躍してもらいました。Petra以外の留学生の名前も記しておきます。

Jutta Joensuuさん
Miisa Myllykangasさん
Alma Ritvaniemiさん
Oskari Nieminen君

懲りずにまた北大の授業、フィンランド協会の月曜入門ハイブリッド授業などを来訪してくれると嬉しいのですが。

bensiini / bensa ガソリン

ガソリン(bensiini、通常はbensaがよく使われる)の値段(hinta)が高止まりしていて全く閉口してしまいます。もっと自分の足や自転車を使わなければと思いつつ、数百メートル先のコンビニへ車で出かけてしまいます。現在札幌では160円前後のリッター価格でしょうか。

フィンランドはどうやら現在日本の倍以上の値段のようです。レギュラーガソリンのリッター価格は概ね2.55€位、これを今日の為替レート(1ユーロ=140.82円)にかけ合わせると、359.091円です。

写真は2004年に撮影した、日本ではちょっと見かけない素敵な給油所、場所は正確には思い出せないのですが、オウルへ北上中のオストロボスニア地方のどこかで撮影したと記憶しています。この時のレギュラーガソリンの値段が別の写真に写っていましたが、1.179€でした。ガソリンスタンドbensiiniasemabensa-asema(後者がポピュラー)、「~へ」、「~に」、「~から」はそれぞれ-lle, -lla, -ltaの格変化になります。

フィンランドのスタンドはカフェや売店を併設していることが多いですが、そのような給油所はhuoltoasema(huoltoは「維持、メンテナンス」の意味)もよく使います。

ディーゼル(ガソリン)dieselと綴り、発音は[diisel]のようになります。

kaukokartoitus リモートセンシング

フィンランド大使館が中心となって行われた北海道フィンランドウイーク、終了しました。北海道フィンランド協会も多くのボランティアスタッフを提供することによって、少しはイベントの成功に貢献できたのではないかと思います。私自身も、5月28日・29日の週末にはモルック(mölkky)PRのお手伝い、先週の平日は授業をほとんど休講にして、イベント受付の手伝いや、実際にイベントへの参加など、てんてこ舞いでした。

水曜日の「林業デイ」を聴講していた時、リモートセンシングによる森林調査に関する発表がありました。リモートセンシングはフィンランド語で何だっけ、どこかで聞いた覚えがあるけど思い出せない、こういう場合はいち早く調べるか、ネイティブスピーカーに尋ねるのがお勧めです。当該イベントにはカレリア(Karjala)地方から、北カルヤラ県の知事他、かなり多くのフィンランド人参加者があったので、イベント後の交流会時に同じテーブルに座ったフィンランド人に尋ねました。kaukokartoitus、そうでした!kauko-は「遠(距離)、遠隔」などを意味し、kartoitusは「地図作成、製図」です。後者の要素は、名詞のkartta「地図」(単数属格kartan単数分格karttaa複数分格karttoja)、そこから派生した動詞のkartoittaa「地図を作成する、地図に描く」(タイプⅠ、tt:tのkpt変化あり)、それがさらに名詞化したものです。このように気になった時にすぐに確認した単語は、だいたい忘れないものです。ただし、20年前なら自信をもってそう言い切れましたが、今はちょっと自信ありません・・・

kuulostaa heprealta チンプンカンプン

水曜日の授業で忘れていた表現を思い出しました、kuulostaa heprealtaです。kuulostaa -ltAは中級以上の学習者は覚えておきたいコンビネーションで「~のように聞こえる」です。一方hepreaはイスラエルの公用語でもある「ヘブライ語」です。

「ヘブライ語のように聞こえる」とは全く理解不能な事柄について使うので、日本語なら「チンプンカンプン」といったところでしょうか。よく使っているネットのKielitoimiston sanakirjaにはSe oli minulle täyttä hepreaa.「それは私にとって完全な(täysi)ヘブライ語だった。」→「それは私にとって完全に理解不能/チンプンカンプンだった。」という例文が載っています。この場合は形容詞täysiとそれが修飾する名詞hepreaは単数分格形になっています。

「ヘブライ語のように聞こえる/完全なヘブライ語だ」が「理解不能」という意味で、他の言語でも使うことがあるのか、どなたかご存知だったら教えてください。

Turkki トルコ

フィンランドに続いてスウェーデンもNato加盟申請を正式決定、とのニュースが入ってきました。同時に、この両国の加盟にトルコが難色を示している、という報道もありました。両国の正式加盟の遅滞につながらなければよいのですが・・・

トルコはフィンランド語でTurkki(kk:kのkpt変化があるので「~の」(単数属格)はTurkin、「~に」(単数内格)はTurkissa)、これを小文字で表記したturkki(発音はもちろんTurkkiと同じですし、文頭に来れば大文字で書くことになりますが)は3つの意味があり:
1 トルコ語
2 毛皮
3 船(舶)[alus]の(船)底[lattia「床」]
3の意味(aluksen lattia)は知りませんでした。知っているつもりの語もこまめに辞書を引くことが大切ですね。こちらは使いそうな文法格としては、単数分格がturkkia複数分格はturkkejaです。

似た発音の語にtulkkiがあります。こちらは「通訳」。単数属格はtulkin単数分格はtulkkia複数分格はtulkkejaです。turkkiとtulkkiはrとlで意味が変わる語の例として、私はたまに取り上げます。「翻訳する」はkääntää(タイプⅠ、nt:nnのkpt変化あり)は語彙に入っている中上級者は多いと思いますが、「通訳する」はtulkata(タイプⅣ、kk:kのkpt変化あり)なので、こちらがまだ語彙に入っていなかった方は入れておいてください。

Mordva/mordva? Moldova/moldova? モルドヴィア、モルドビン(語)? モルドバ(語)?

ロシアのウクライナ侵攻に伴い、ウクライナとルーマニアに挟まれた小国、モルドバ(この表記が一般的だが「モルドヴァ」の表記もあり、旧称は「モルダビア」、フィンランド語ではMoldovaなら国、moldovaなら言語)にも注目が集まっています。

この「モルドバ」の響きを聞くたびに何か懐かしい思いがしていたのですが、ある日「フィンランド語と同じウラル語族に属す『モルドヴァ語』の国ではないか!」と気づき、ちょっとこの国のことを調べてみたのですが、公用語はルーマニア語とあり、モルドヴァ語に関する記述もなく、袋小路に入りこんでしまいました。

1,2日考えて、私が関心のある言語のモルドヴァ語(モルドビン語)のラ行音はlではなくrであることに気付き、調べ直したら、ありました、Mordva(言語ならmordva)が。Mordvaはモルドヴィア共和国、沿ボルガ連邦管区に属するロシア連邦の構成共和国です。私と同じ勘違いをする人がたまにいると見えて日本語版ウィキペディアの「モルドヴィア共和国」の項目では、「ルーマニアとウクライナの間にあるモルドバ(Молдова / Moldova、モルドバ共和国、旧称モルダビア)と混同しやすく、注意が必要である」と但し書きがありました。モルドヴィン諸語(モルドビン諸語、mordvalaiset kielet)はエルジャ(ersä)語とモクシャ(mokša)語に分類され、どちらもロシア内のモルドヴィア共和国で話されています。

言語の面で整理すると、ウクライナとルーマニアに挟まれた独立国家の言語は、インド・ヨーロッパ語族ーイタリック語派ー東ロマンス語-ルーマニア語(モルドバ語)、ロシア連邦を構成する国の方は、ウラル語族ーフィン・ウゴル語派ーボルガ・フィン諸語ーモルドビン諸語(エルジャ語とモクシャ語)ということになります。フィンランド語は、ウラル語族ーフィン・ウゴル語派-バルト・フィン諸語ーフィンランド語という系統になります。

少し古い資料ですが、小泉保先生の『ウラル語のはなし』(大学書林、1991)によれば、モルドビン諸語の話者数は、ハンガリー語、フィンランド語に次いでウラル語族では第3位を占める約120万人を数えています。これはエストニア語の話者よりも多い数字です。このような興味深い言語が話されている地域、ロシア国内ということもあり現状では訪れるのが難しいのが残念です。

 

Nato ja nattō 北大西洋条約機構と納豆

フィンランドとスウェーデンがNATO(北大西洋条約機構、英:North Atlantic Treaty Organization)加盟に意欲を示しているとの報道がニュースや新聞紙面を賑わせている最近です。

Natoはフィンランド語での正式名称は2語、Pohjois-Atlantin puolustusliittoで表されます。Pohjoisはpohjoinen(「北、北の」)のこと、AtlantinはAtlantti(「大西洋」)の属格(「大西洋」、tt:tのkpt変化あり)、一方後ろの語はpuolustus(「防衛、防御、守備」)とliitto(「同盟、連合」)の複合語、フィンランド語では機構名に「防衛、防御」という言葉がしっかり入っています。

フィンランド人も通常はNatoを使いますが、これは頭文字を取った固有名詞なので、t:dのkpt変化は起こさず、「Nato」(属格)はNatonのようにそのまま元の形を保持したまま格変化します。

写真はラップランド、イナリ郡のNellimという小さな集落近くのフィンランド・ロシア国境地域(rajavyöhyke)  で撮影したもの。大きな看板には「国境地域 許可なく立ち入り禁止」の文字が上から、フィンランド語、スコルトサーミ語、スウェーデン語、ノルウェー語、英語、ロシア語で書かれています。また、多くの樹木には「国境地域」の黄色いテープも巻き付けられています。

こちらの方が平和、かつ健康的で好きです

話題変わって、フィンランド人の多くが苦にしない(むしろヴィーガンの留学生などは毎日のように食べている人もいるよう)「納豆」は、表記と発音が基本的に一致するという原則から見ると、nattooが一番自然のように思われますが、nattōのように表記していることが多いようです。ō自体はフィンランド語のアルファベットにはない文字なので、nattoと表記している場合もあります。「発酵させた大豆から作られた伝統的な日本の食品(hapatetuista soijapavuista valmistettu perinteinen japanilainen ruoka)」などと説明的に言わなくとも、日本にいるフィンランド人、日本に興味を持っているフィンランド人はそのままnattōを使って大丈夫です。

それでは「納豆」の言いたいときは、tt:tの最も代表的なkpt変化は起こるでしょうか?結論からいうとkpt変化は起こさずにnattōn、あるいはnattonが普通のようです。kk:k、pp:p、tt:tの最も代表的な3種のkpt変化は外来語でも発生することがあるのですが、もし「納豆の」をkpt変化を起こして発音すると「Natoの」とほぼ同じ発音になってしまうからかもしれません。