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フィンランド語講座

北海道フィンランド協会

kesäkurpitsa ズッキーニ

2020年7月25日

8月(elokuu=「収穫月」)に入り、例年ならそろそろ夏休みという時期なのですが、コロナ禍のおかげで夏休み開始が大学も、フィンランド協会の授業も先送りになり、バタバタと忙しく時間が過ぎていきます。どのくらいの方がこのブログ欄をたまに覗いてくださっているか見当もつきませんが、2週間くらいお休みになっていました。

弟の家族、それからSiljaと、気分転換、趣味とわずかな実益を兼ねてやっている市民農園のズッキーニが豊作です。1株しかないのですが写真はすべてその1株からとれたもので、その後もたくさん収穫しています。近所からも断れずにいくつか貰ったので、今年はズッキーニ豊作の年かな?

ズッキーニkesäkurpitsaは「夏」(kesä)+「カボチャ」kurpitsaのわかりやすい発想の複合語です。Kesäは既に語彙に入っている方も多い語かと思いますが、実はフィンランド語の東西の方言差の例としてよく持ち出される語で、このkesäはもともと代表的な東方言です。一方西方言の「夏」はsuvi。Kesäはファーストネームとして用いられませんが、Suviはよくある女性の名前です。日本なら「夏子」さん、何年か前のヘルシンキ大学からの留学生にもSuviさんがいました。

フィンランドのズッキーニ

カボチャkurpitsaはいつもお世話になっているKaisa Häkkinen著『現代フィンランド語語源辞典』によれば、ラテン語のcucurbitaがスウェーデン語のkurbitsを経由してフィンランド語に入ってきた比較的古い外来語とのこと。Kurpitsaという語形の初出は1642年発行の聖書、それより前世紀のミカエル・アグリコラもカボチャに言及していますがkurbitaという形で紹介しています。

ズッキーニはフィンランドでも夏によく食べられる野菜です。

ummikko 【英語】=person who speaks only his own language, person who cannot speak any other language expect his own

何語も費やさなくてもその一語で事足りる、他言語だと何語も費やして説明しなければならない、そういう語ってありますよね。その点でummikkoは私の好きな語で、英語だとタイトルのように15語以上も説明に必要な語です(WSOY刊Uusi suomi-englanti suursanakirjaの説明)。

フィンランド語の国語辞典であるSuomen kielen perussanakirjaではummikkoは”ihmisestä joka osaa vain äidinkieltään tai ei ymmärrä sen maan kieltä, jossa oleskelee”(「①母国語しか話せない人、あるいは②滞在している国の言語が理解でない人」)と少し広い解釈になっています。

好きな語と言いながら上記②の解釈をすっかり忘れていましたが、語源のumpi-「閉じた、塞がった」とそこからの派生語、たとえばumpikuja「袋小路、[比喩的に]行き詰まり」、umpisuoli「盲腸」などを考えると②の意味合いが理解できると思います。

umpi-は「全くの、完全な」といった意味合いで使うこともあり、umpisapporolainenと言えば「生粋の札幌っ子」的な意味合いになり、私もちょっとふざけて使ったりします。umpiosakalainenなら「コテコテの大阪人」といったところでしょうか。

osteri 牡蠣

前回に続いて食べ物の話です。行きつけの市内美園(みその)の居酒屋が今月いっぱいで店を閉めることになり、残念な思いをしています。「昭和」ムード満載で、持ち込みOK、いつもおいしいものを出してくれるだけでなく、食べ物の調理法や旬(sesonki)のことを教えてくれる素敵なママさんなのですが、寄る年波には勝てず仕入れがつらくなったこと、またこのコロナ禍で、40年近い歴史を持つ店をたたむ決心をしたようです。フィンランド人たちともよく行ったし、例外なくみんなが気に入ってくれる店だったので、本当に残念です。

「Rのつかない月(5月~8月)には牡蠣を食べるな」ということわざが欧米にはあるようで、昔英語の授業でも確かにそう習った記憶がありますが、先日その居酒屋で本当においしい根室産のカキ(「牡蠣」は自分で漢字で書けなくなってしまって、なんだか恥ずかしいので、以下カタカナで表記します)を食べました。

カキはフィンランド語でosteri、英語のoysterにかなり近い外来語です。英語のoysterも含め、ギリシャ語の「骨」を表す語からラテン語経由で多くのヨーロッパの言語に広まったようです。フィンランドでは1800年代後半までostronという形が使われ、Elias Lönrotの1880年の辞典には、ostroniと現在のosteriの両方の形が紹介されています。他にsaksansimpukka(「ドイツの二枚貝)、syömäsimpukka(「食べ(られ)る二枚貝」)の名称もあったそうです。(Kaisa Häkkinen著『現代フィンランド語語源辞典』による)

もうあんなにおいしいプリプリのカキは食べられないと思っていたら、閉店を知った根室の知人の漁師さんがもう一度月末にママさんのところへ送ってくれると約束してくれたそうで、ぜひもう一度食べに行こうと思っています。

täytetyt herkkusienet 詰め物をしたマッシュルーム

写真は私の知人のPertti(愛称Pepe)が夏の別荘で調理している様子とその料理。どんな料理か分かりますか?大き目のマッシュルーム(herkkusieni)の石突(kanta)を取り、さかさまにした傘にブルーチーズ(homejuusto、home「カビ」+juusto「チーズ」)を詰め、ベーコン(pekoni)で巻いて焼いたもの。詰めるチーズはブルーチーズ以外でもOKです。石突も捨てずに食べましょう。夏を思い出させる私も好きな料理で、家でも道産子が大好きな焼肉の際に作ってみたことが何度かあります。

この料理、何とフィンランド語で呼んだらよいか知らなかったのですが、täytetyt herkkusienet「詰め物をしたマッシュルーム」が良いようです。文法的にはなかなか難しく、「詰める、満たす」という動詞täyttääの受動過去分詞täytetty「詰め物がされた」をherkkusieni「マッシュルーム」の変化(辞書形→複数主格形)に合わせて変化させたものです。tt:tのkpt変化が起こっていることに注意してください。

 

 

私が担当の、テキストsuomea suomeksi 2を使っているクラスで勉強している皆さんは、10課のs66でtäytettyjä paprikoita「詰め物をしたピーマン」が出てきたことを思い出してください。こちらはtäytetty paprikaの複数分格形です。

linnunrata 天の川・銀河

天気が悪かったせいか今日が七夕であることをすっかり忘れていました。「天の川」は東アジア諸国では夜空の光の帯を川(河)に見立て、また、多くの欧米諸国ではギリシャ神話に由来することもあって英語のMilky Wayのように「乳」と見なすことが多いようですね。

一方フィンランド語はlinnunrata(lintu「鳥」のrata「コース、軌道、道筋」)と、ちょっと異なった発想で描写しています。私が頼りにする2種類の語源辞典にもlinnunrataに関する記載はありません。

まだ詳しくは調べていないのですが、バルト・フィン語(代表的なものはフィンランド語とエストニア語)を話す人々の世界観、彼らにとって特別な鳥であるjoutsen「白鳥」、その「渡り」といったことが、このちょっと変わった天の川の描写に関係あるようです。

興味深いテーマですが、当分はゆっくり調べる暇はなさそうです。残念。

heinäkuu 7月

7月はheinäkuu「干草の月」、今でも田舎へ行くと牧草の刈り取りや牧草干しを見ることができます。7月は平均して雨が少ないこともあり、干草作りに適していたのでこの名前がついたのだと思いますが、最近は8・9月が意外と晴天が続くことが多いようです。私が2017年の8月~9月の2か月間フィンランドを訪れた際には、一度も傘を使わずにすみました。その前の7月は天気が悪い日が続いていたので気を揉んでいた記憶があります。

heinäは最近よくお世話になっているKaisa Häkkinen著Nykysuomen etymologinen sanakirja「現代フィンランド語語源辞典」によれば、古いバルト・スラブ語(ラトビア語やリトアニア語の祖語)からの借用(現代ラトビア語では干草はsiens)だそうで、ミカエル・アグリコラの時代から使われている語です。「草」はフィンランド語でruoho、こちらもアグリコラ時代から文献に現れている古い語ですが語源には諸説あるようです。

干草作りは田舎の夏の風物詩ともいえるもので、私も2、3回大して役に立たない労働力として手伝ったことがありますが、天気の良い間に一気に済ませてしまいたい大がかりな作業なので、talkoot(説明しずらいのですが、町内会活動のようにボランティアで近所や親戚の手伝いをすること)で行うことが多いようです。「牧草地の照り返しが思ったよりものすごく強いから、黒い服を着て仕事へ行ってはダメよ」と友人のお母さんのMaijaに何度も心配してもらったことを思い出します。

timjami eli tarha-ajuruoho タイム(timjamiあるいはtarha-ajuruoho)

プランターに植えてあったタイムが春に芽吹き、今は小さな白い花を咲かせています。一年生の草本かと思っていたのですが、多年生の木本(小低木)だったのですね。

タイムは、伊達市大滝区で作っているレッドビーツ(punajuuri)でボルシチ(borssikeitto)を作る時に必ず入れています。先輩で友人でもある大滝の藤田さんは私が作るボルシチは「土臭くなくていいね」と褒めてくれますが、パセリ(persilja)やディル(tilli)の他にタイムを入れているのが効いているのかもしれません。

タイム(timjami)はもともとは「香(こう)」を表すギリシャ語が、ラテン語、古スウェーデン語を経由してフィンランド語に入ってきた語のようです。古代エジプトではミイラ(muumio)の防腐剤としても使われていたとか。フィンランド語の書き言葉の父ともいえるミカエル・アグリコラ(Mikael Agricola(1510頃‐1557))の時代はtimjaniという形をしていて意味はやはり「香」という意味、その後スパイスとして用いる植物としては1683年にエリアス・ティランツ(Elias Tillandz)が著した植物誌が初出のようです。
(参考文献:Kaisa Häkkinen著 Nykysuomen etymologinen sanakirja『現代フィンランド語語源辞典』)

昨秋収穫して藤田さんの冷蔵倉庫に保管してあった最後のビートをもらってきたので、これを使って今晩はボルシチかな?!

koronaan liittyviä sanoja 2 コロナ関連語句2

そうそう、1語忘れていました。Nettaによればフィンランドではkoronanjälkeinen「コロナ後の」という新しい形容詞が生まれているそうです。koronanjälkeinen syksy「コロナ後の秋(そうなってほしいものですが…)」とかkoronanjälkeinen elämä「コロナ後の生活」のように使います。もちろん形容詞ですから理論上は単複10格以上に格変化します。

koronaan liittyviä sanoja コロナ関連語句

水曜上級サークルのHさんからコロナ関連語句を紹介してほしい依頼を受けたのに応えるのが少し遅くなりました。いくつか紹介します。語彙選定に当たってはNettaのアドバイスを受けました。

≪基本語彙・言い回し≫
koronavirus コロナウイルス(通常はkoronaだけで通じます)
-Minä sain koronan. 「私はコロナに罹りました。」←sainは動詞saada「得る」の過去形一人称単数形
-Minulla on korona.「私はコロナに罹っています。」←所有文(参考:ss1の7課)
maski 「マスク」→2 maskia「2枚のマスク[単数分格]」、monta maskia[単数分格] = paljon maskeja[複数分格]「たくさんのマスク」
pandemia 「パンデミック」
≪応用≫
saada tartunnan[辞書形tartunta「感染」、nt:nnのkpt変化あり] 「感染する」≒tarttua
tartuttaa 「(他人に)感染させる」
koronarajoitus 「コロナによる様々な制限」
koronapolitiikka 「(対)コロナ政策」
koronavirustilanne 「コロナウイルス(感染)状況」
riskiryhmä 「(高齢者、妊婦など)感染リスクが高いグループ」
-kuulua riskiryhmään 「(高齢者、妊婦など)感染リスクが高いグループに属している」←kuulua + 入格「~に属す」
koronakevät 「コロナの春[2020年の春を称して]」

少しでも皆さんの参考になれば幸いです。

手、洗って! te alatte

「日本語のように聞こえるフィンランド語」、その逆で「フィンランド語のように聞こえる日本語」、フィンランド語を勉強していると感じる時ってありますよね。あるフィンランド人は、初めて日本に来た時、日本人たちが夜にOjassa minä sain.「堀[水路]の中で私はつかまえた」と言っているように聞こえたと言ってました。「おやすみなさい」です。

先日個人授業で動詞の人称変化の復唱をしている時に高校生の生徒さんが急にクスッと笑ったのでどうしたのかなと思ったのですが、私が急に「手、洗って!」といったように聞こえたようです。動詞alkaa(「~し始める、始まる」タイプⅠ、k:Φ[消える]の最も難しいkpt変化あり)の人称変化、minä alan「私は~し始める」、sinä alat「あなたは~し始める」、hän alkaa「彼/彼女は~し始める」、me alamme「私たちは~し始める」の次、te alatte「あなたがたは~し始める」でした。

alkaaは過去形の変化もaloin, aloit, alkoi, aloimme, aloitte, alkoivatと難しいので注意です(ss1の19課s120最初の■参照)。また、「~し始める、始まる」という場合は主に、①ruveta(タイプⅣ、p:vのkpt変化あり)+-mAAnか②alkaa+動詞の辞書形を使っていたのですが、①からの類推で③alkaa+-mAAnと言ったり書いたりするフィンランド人が続出し、私がフィンランド語を習い始めた頃は③は誤用だったのですが、最近はこれも許されています。この話題は中・上級コースでテキストss2の6課(s45Huomatkaaの3つ目の■)で私は言及しています。