ドラえもんのひみつ道具
「ドラえもんのひみつ道具って、フィンランド語で何ていうんですか?」
以前私がひっそり主催していた会話クラスで、生徒さんがこんな質問をしました。
ドラえもんのひみつ道具、考えたこともありませんし、フィンランド人の口から聞いたこともありません。
「ちょ、ちょっと待ってくださいね」
私にはネイティブの直観はありません。けれど、どういう調べ方をすれば答えにたどり着けるのか道筋を建てるのは結構得意な方です。
しかし今回は動揺してしまいました。
どうやって「ひみつ道具」を調べましょう。皆さんならどうしますか?
・フィンランド人の友達にきく
よくフィンランド人に「これって何ていうの?」と聞いて助言を求めるのですが、今回はだめです。ドラえもんのアニメファン、漫画愛読者には会ったことがありません。Hopeanuoliこと『銀牙-流れ星銀-』や『ワンピース』『ドラゴンボール』を読んだことがあるという人は知っていますが、ドラえもんの知名度はうんと低い。フィンランド語版wikipediaにDoraemonの記事が一応あるのですが、ひみつ道具への言及がひとつもありませんでした。ひみつ道具に一切触れずにドラえもんを説明なんて、なかなか度胸があります。
・自分なりにフィンランド語訳してみる
もちろんそのまま生徒さんへの答えにはなりません。けれど自分なりの予想をたてれば、フィンランド人に聞いたり用例を発見したりする手がかりになります。
けれど今回は考えれば考えるほど迷宮入りです。
「秘密」はフィンランド語でsalaやsalaisuusですが、「ひみつ道具」ってのび太がすぐジャイアン・スネ夫に自慢しに行くのであまり秘密じゃないんですよね。道端や空き地という人目に付きかねない場所で使っていますし。ちょっとsalaisuusとは呼べません。「ひみつ」というのは「とっておき」ぐらいの意味なんじゃないでしょうか。
「道具」は(työ)kaluがすぐに思い浮かびますが、あまりしっくりきません。(työ)kaluは斧とか、ハンマーとか、のこぎりとか、そのもので何かを加工するイメージです。少なくとも私にとっては。ドラえもんはよく機械のようなものもポケットから出します。ああいったものはkaluというよりはlaiteかしら、koneかしら。どれにも確信が持てませんでした。
・用例をあたる
予想が全く立たないまま、広いインターネットの世界から用例を探すことにしました。五里霧中です。
「誰か、誰かドラえもんの話をしていないか、フィンランド語で」
祈るような気持ちで検索を続けます。
そうするとSteamというPCゲームをダウンロード販売するサイトがヒットしました。私も何度か使ったことがあります。日本のゲーム会社も全世界に向けて商品を販売しています。
「ドラえもん のび太の牧場物語」というゲームのレビュー欄に、ゲームをフィンランド語で絶賛しているフィンランド人がいました。事細かにゲームの面白さを伝えてくれています。そこに「ひみつ道具がゲームのいいアクセントになっている」という記述が!
そのフィンランド人が使っていた語が erikoisvekotin です。erikoinen「特別な」とvekotin「ガジェット」の複合語です。特別ガジェット。確かに腑に落ちます。
そこでようやく、「ひみつ道具はフィンランド語でerikoisvekotinです」と生徒さんにお伝えすることができました。ちなみにvekotin「ガジェット」の-inは道具をあらわす接尾辞なので語形変化に気を付けましょう。単数属格はvekottimen、単数分格はvekotinta、複数分格はvekottimiaです。
調べたものの、人生でもう使わないだろうと思っていたerikoisvekotinですが、その後フィンランド人相手に使う機会がありました。わからないものです。皆さんもひみつ道具の話をフィンランド語でする機会はないかもしれませんが、パソコンやスマホの周辺機器の話題の際、ぜひvekotin「ガジェット」を思い出してください。